【ワールドダイスター備忘録】ギムレットにお別れを

 

初ブログです。

『ワールドダイスター 夢のステラリウム』について、より深く向き合うために文字を書き起こすことを決意しました。

演目の小ネタやストーリーの解釈を自分の中で整理し、後で見返したりするのが主な目的です。

 

以下の記事を読む際の注意点

・イベント「ギムレットにお別れを」とメインストーリー「シリウス1章」のネタバレを含みます。

・考察、解釈はあくまで個人の意見です。解釈のブラッシュアップをしたいので意見は常に募集しています。

・チャンドラー作品は何も読めていないので作品の解釈が違う部分があるかもしれません。ハードボイルドな大人になるためにいつか読みたいですね。

・当ブログは『ワールドダイスター 夢のステラリウム』関連二次元創作・ゲーム実況配信及び動画投稿に関するガイドラインを確認したうえで投稿しています。

 

 

銀河座の次の演目は長いお別れ

長いお別れとは、私立探偵フィリップ・マーロウを主人公とするハードボイルド小説。

配役とざっくりとしたキャラの関係を挙げてみます。

 

フィリップ・マーロウ:ラモーナ・ウォルフ

私立探偵。弱いものを非常に切り捨てることができない情のある男。

・テリー・レノックス:王雪

マーロウの友人。妻のシルヴィア殺人の容疑をかけられ、マーロウの前から姿を消す。後に整形した姿で再開し、その際に告げたセリフが本作の名言「ギムレットには早すぎる」

・ロジャー・ウェイド:千寿暦

人気作家。妻のアイリーンに殺害される。

・アイリーン・ウェイド:リリヤ・クルトベイ

ロジャーの妻。10年前に亡くなった恋人のことを深く愛している。

・メンディ・メネンデス:与那国緋花里

ギャングのボス。テリーとは戦時中同じ部隊で彼に命を救われた恩があり行方を捜している。

 

配役決定後にこんなやり取りがありました。

原作ではアイリーンが戦争で亡くなったと思っていた恋人こそがテリー*1であり、テリーの妻と自分の夫の不倫が原因で二人を殺害します。平和どころかドロドロの関係です。

 

それでは本作の主演ラモーナについて触れていきます。

 

ラモーナにとっての理想の自分

軍人の両親の背を見て育ったラモーナは、立派な両親に強い憧れを抱き、ドイツにいた頃から、皆に手を差し伸べる『強いラモーナ』になることを理想としていました。

『強いラモーナ』になるために不要と決めつけた甘えたい気持ちや強くなれない弱い自分をなくし、周りからは強い人だと思われるようになりますが、理想の自分は崩すことのできない縛りのようになっています。

そもそも人間としての強さとは、何かを切り捨てて得られるものではありません。

表面上は強く見えてもそれは背伸びをした子供が演じているだけの強さです。

 

マーロウの役作りに難航したのはこれが原因です。

 

固さの質

 

ラモーナは役作りの際に演出家に固さの質が違うという指示をうけています。

固さの質とは何か?その説明の前にそもそも役作りとは何かに触れていきます。

 

「役作りとは自分を知り、役を知り、共通点と相違点を見つけて一歩ずつ役に近づいていくこと」 

アニメ「ワールドダイスター」第3場で静香がここなに言ったセリフです。

 

ラモーナはマーロウと自分の共通点を探し、「弱いものを切り捨てたりしない、情のある男」という部分を共通点としてとらえていますが、重要な相違点を見落としています。

それはラモーナが甘えたい気持ちや強くなれない弱い自分を切り捨てているという点です。

 

前述した通りラモーナの強さは、不要と決めつけたものを切り捨てた背伸びした子供が演じている余裕のないものです。

一方マーロウは強くもあり優しい大人の余裕をもった男です。

 

つまり固さの質とは、心の余裕を指していたと考えられます。

人の心の問題なので指示が曖昧になったのも頷けます。

そして役作りに難航したラモーナは、だんだん私生活でも余裕がなくなりラモーナらしくない言動が増えていきます。

 

役者にとって必要な気持ち

ラモーナ宛に届いたシュトーレンとメモの入った空箱。メモには『借りたままだったから、返すね』とあり、それはドイツの劇団にいた頃甘え下手な後輩に手渡した『甘えたい気持ち』でした。

 

人に心配されることや甘えることは『強いラモーナ』のイメージに反します。

それ故に役作りが上手くいかない悩みを一人で抱え込んでしまいます。

 

そんな時役作りのため一人になろうとするラモーナに手を差し伸べてくれたのは、銀河座のメンバーでした。

そして悩んでいるラモーナに対し、甘えてほしいと正面から伝えたのは、出会った頃「人付き合いは時間の無駄。」と取り付く島もなかった王雪でした。

王雪や銀河座のメンバーに『役者にも絆が必要』と伝え行動し、皆を変えたのはラモーナです。

 

ここで今回のイベント曲であるラモーナの役を介さない初のソロ曲 So long, Say Goodbyeの歌詞を見てみます。

自分にはいらないでも 誰かには必要だと信じて

手渡していた どんな想いや感情も

きっとさよならには 早すぎると気づいたよ

仲間の瞳が教えてくれる

変わること 変わらないこと

背筋を伸ばしていたい、両親のようになりたいという気持ちは変わりません。

だだ『強いラモーナ』のイメージとは違う、誰かに甘える自分でも受け入れてくれる役者仲間のおかげで変わることができました。

自分が変えたことが自分が変わることのきっかけになったのです。

 

自分に必要な気持ちを取り戻したラモーナは演技にも変化が現れます。

今までは『強いラモーナ』であることが縛りのようになっていましたが、仲間に甘え弱い自分を許すことで肩の力が抜け心の余裕が出ています。

 

アニメでも描かれたシリウス1章にも役者に気持ちを返すシーンがありましたね。

他の誰かを演じる役者にとって、切り捨てていい不要な感情はないのかもしれません。

 

ギムレットにお別れを

ギムレットはマーロウとレノックスにとってお別れの証。

ラモーナは銀河座を去るつもりはないと雪に伝え『ギムレットには早すぎる、からな』と一言告げイベントを締めます。

読み終わったときは緋花里のような反応になってしまいました。

 

この場面の『ギムレットには早すぎる』には、ドイツに帰りギムレットを飲める年齢になることと、銀河座を去り仲間とお別れをすることの二重の意味があります。

 

ちなみにカクテルには花言葉のようにそれぞれのカクテル言葉があります。

ギムレットのカクテル言葉は「長いお別れ」、「遠い人を想う」です。

このシーンではドイツの劇団員に対して手紙を出してるので「遠い人を想う」という意味も込められているのかもしれません。

 

他にも「遠い人を想う」ことが顕著に描かれている部分があります。

それは【名探偵の悲哀】ラモーナ・ウォルフのサイドストーリーです。

 

【サイドストーリーの内容がわかる投稿は原則禁止のため、かいつまんだ説明とネタバレ防止の文字反転をさせていただきます。】

 

ラモーナはドイツの劇団員と度々手紙を交わしていますが、後編の話ではまるで普段は懐かしむことをしてないように受け取れます。

ラモーナにとって手紙とは、自分は異国の地でもうまくやれているから心配する必要はないと今は会えない遠い人に対して『強いラモーナ』のイメージを保つための行為だったのかもしれません。

 

銀河座の仲間のおかげでドイツの仲間との別れの経験という自分の持っているものに気づけたラモーナの演技はさらに磨きがかかります。

「役作りとは自分を知り、役を知り、共通点と相違点を見つけて一歩ずつ役に近づいていくこと」 

やはり役者にとって自分を知ることはとても大切なことであり、それに気づくきっかけになったのは劇団の仲間、つまり『役者にも絆が必要』ということです。

 

親への憧れをもった同郷の役者

今回のイベントストーリーでラモーナが親への強い憧れを抱いていることがわかりました。

そういえば同じく親への憧れをもった同郷の役者がいましたね。

 

そう、カトリナ・グリーベルです。

 

そんな二人が歌う暁星アストレーションに注目すると新しいものが見えてきます。

上手くいかないまま逃げ出してきた そんな自分を忘れたかったんだ

憧れたものを追いかけていた まだ届かないならばどうすればいい?

やり直せるなら もう一度始めよう 新しい今の私で

今まではラモーナの憧れたものの部分が曖昧でしたが、お互い親のようになりたいという気持ちとその憧れに届かない葛藤を一人で抱え込んでいるように見えます。

ですが二人にはそんな葛藤を打ち明けることができ、支えてくれる仲間がいるそれぞれの居場所があります。

果てのない銀河で 失くしたくない 褪せないこの居場所が

いつかきっと君を追って

夢想って手を取って

ぶつかって何よりも輝くんだ 暁星(あけぼし)のように

二人は新しい今の自分と仲間とともに憧れを、理想の自分を追いかけ夜明けの空でも消え残る星のような役者になっていくのでしょう。

 

小ネタ回収と余談

イベント各話タイトルについて

実はイベントストーリーの各話タイトルにそれぞれ元ネタがあります。

フィリップ・マーロウレイモンド・チャンドラーが生み出したハードボイルド小説シリーズの探偵です。

複数の登場作品と作中では数々の名言があり、それが元ネタになっています。

 

第1話 さらば、愛しき....

さらば愛しき女よ」 登場作品

第2話 渦中の女

「湖中の女」 登場作品

第3話 タフでなければ生きていけない

「タフでなければ生きていけない、優しくなければ生きている資格がない」 名言

第4話 自分で自分に仕掛ける罠

「自分で自分に仕掛ける罠ほどたちの悪い罠はない」 名言

第5話 リトルシスター

「リトル・シスター」 登場作品

第6話 プレイバック

「プレイバック」 登場作品

第7話 優しくなければ

「タフでなければ生きていけない、優しくなければ生きている資格がない」 名言

第8話 ギムレットには早すぎる

ギムレットには早すぎる」 名言

 

子どもっぽい?

ラモーナの強さに対し「背伸びをした子供が演じているだけの強さ」という表現をしましたが、ストーリーでラモーナに対し子どもという表現はあまりされている覚えがありませんでした。(見落としてるかも...)

そんな時SSRポスター「The Long Goodbye」のアフターストーリーを解放したらピンポイントでそんなやりとりがありました。

雪と暦はしっかりラモーナの子供っぽさを見抜いていたようです。

 

 

ここまで読んでいただきありがとうございました。

解釈や考察についての、賛同や解釈違い等の意見なんでも募集しています。

また気が向いたら他のストーリーもまとめてみるかもしれません。

 

 

*1:戦前はポール・マーストンと名乗っている。